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H-1B ビザを通した就労に関する雇用主と従業員が持つ権利と責務
―最近判決が下された訴訟ケース―
E-Min Newsletter Japanese Article #82
H-1B ビザはアメリカで働く日本人にとっても大変なじみも深く、大変需要の高いビザでもあります。皆さんご存知のように2007年度の H-1Bビザは申請受付開始から2ヶ月足らずで受付が締め切られた程です(通常枠)。そんな H-1Bビザですが、 H-1B従業員及び雇用主それぞれには雇用上どのような権利や責務を伴うのでしょうか。 H-1Bビザを取得できさえすれば後は特に気にしないという人も中にはいるかもしれません。実際就労が開始されれば労働法等様々に考慮すべき法律もありますが、今回は H-1Bビザに限定し移民法の観点から従業員及び雇用主が持つ権利と責務について最近の興味深い訴訟ケースを例に皆さんに紹介します。
Amtel Group of Florida, Inc. vs. Rungvichit Youngmahapakorn
Amtel 社と Rung氏の移民法訴訟における最近の判決は、特に H-1Bビザにて外国人を雇用している会社が果たすべきその責務について大変重要な影響を与えるものとなりました。その判決の最大のポイントとなる点は雇用主が H-1B従業員を解雇する際は適切なステップを踏まなければならないということです。もし雇用主が “bona fide termination(ボナファイド解雇)に沿った解雇手続きを踏まなければ、場合によっては雇用主が解雇したと思っていた期間においてもその会社での H-1Bビザが有効な残された期間に対して必要な賃金額を支払わなければならない事態に陥る可能性があるというものです。ここで言う ”bona fide”とは“誠意を持って“、”正直に“、”率直に”、”真摯に”という意味です。この訴訟ケースにおいて Amtel社は適切に移民局に従業員解雇の通知を行わなかった結果として7万ドルの支払い命令が下されました。その判決結果は労働局管理審査会より下され、雇用主及び従業員の両方の権利および責務に関し今後多大な影響を与える重要なケースとなりました。
この訴訟ケースの開始はAmtel社のInternal AuditorとしてH-1Bビザにて就労していた Rung氏が自国であるタイへ正式な2週間の休暇を利用して帰省した2003年5月にさかのぼります。彼女が帰省先から戻った2003年6月1日、Amtel社はRung氏に対し、特に理由を告げることなく解雇通告しました。この予期しない解雇が Rung氏による労働局への異議申し立ての最大の要因となりました。その異議の内容によるとAmtel社はLCAに記された規約に違反しており、それは外国人労働者に対する差別であるというものでした。
Rung 氏によると当初 Amtel社は LCAに掲載されていた“ Prevailing Wage”の支払いに違反していたと主張していました。ご存知の方もいるかもしれませんが会社側は H-1Bにて従業員を雇う前に労働局 から Labor Condition Application (LCA) という書類の承認を受けなければなりません。 LCAを承認してもらうには、一定のポジションに対してその就労する地域の応じて定められた賃金金額( Prevailing Wage)と同額かそれ以上の給与を払わなければならず、同時にその雇用によりアメリカ人に対する雇用が損なわれてはならないことになっています。LCAは専用のウエブサイトで情報を記入し、その場で労働局の認可をもらい、のちに雇用主のサインをもらいます。
このケースにおいて更に Rung氏は LCA上は Internal Auditorとして労働局より承認を得ていたけれども、実際はVice-Presidentとして業務を全うしていたとも主張していました。Rung氏は Amtel社にてVice-Presidentとして働いていたという断固たる証拠を提出しました。それらの書類の中には彼女が確かに Vice-Presidentという肩書きで仕事をしていたことを裏付ける会社の書類や住所録などが含まれていました。
これら事実を基にRung氏はVice-Presidentとしてより高い報酬を得るべきであったと異議申し立てを行いました。しかしながら最終的に裁判所は、彼女は実際には Vice-Presidentとして働いていたけれども、その間、低い賃金である旨を会社に対して一度も異議を唱えなかったと説明しました。一方 Rung氏は裁判所に対し、そのことを会社側に伝えると解雇されるかもしれないという恐れがあったため異議を唱えなかったと反論しました。しかしながら結局この異議は退けられ、この部分の賠償受け取りには至りませんでした。ただこのことは逆に言うと全てのH-1B保持者が会社から雇われている際に注意すべき点であるとも言えるでしょう。自分がどこで、またどのようなポジションで働いており、それに対して正当にPrevailingWageが計算された上でLCA が作成されていることを各自が認識しておく必要があるということです。
Rung 氏は更に Amtel社は ”Bona fide termination”を行わなかったとして、その行為が移民法に反するとも主張しました。この主張に対して管理審査会は Rung氏の異議を認め、 Amtel社には Internal Auditorの Prevailing Wage額である年俸$52,041を基にRung氏のH-1Bによる就労期限である2004年11月28日までの給与支払いを命じました。この件に関しては結局、裁判所のこの判決の決め手となたのは Amtel社が ”Bona fide termination”を行わなかったという事実でした。
このように Rung氏は、Amtel社は自分に正当な理由を与えることなく解雇したため、その解雇は適切なものではないと主張しました。一方で裁判所は、理由そのものは Rung氏を解雇するのには必ずしも必要ではなかったとも述べました。その代わり、裁判所は "bona fide termination”を行うために雇用者側が H-1B従業員に対して行うべき責務を述べました。
- 解雇を H-1B従業員に通告すること
- 従業員のビザステータスを正当に終了させるため雇用関係が終わったことを移民局に通知すること
- ケースによっては解雇により H-1B従業員が自国へ戻る場合、その旅費を支払うこと
裁判所は移民法の下、雇用主は H-1B従業員をいかなる理由においても解雇することができるとなっています。しかしながら雇用主は移民局に対して正当な解雇がなされたことを通知しなければなりません。裁判所の判決は外国人従業員を守るだけではなく、移民局にとっても H-1B保持者のステータス状況の追跡を可能とするもので、それにより解雇された人がビザを正しく維持しているかも確認することができます。裁判所側がこの決定を通して国家の安全を主張した点は疑いもないことです。
Rung 氏が行った更なる異議申し立てによると、彼女は他のアメリカ人従業員に比べてフリンジベネフィット(給与以外の手当て)が少なく不公平であったというものでした。 Rung氏は証拠としてアメリカ人の General Managerが Rung氏よりも多くのフリンジベネフィットを受け取っていたという書類を提出しました。しかしながら裁判所はその明らかな不公平にもかかわらず、 Rung氏の異議を退けました。裁判所の説明によると外国人労働者は雇用上、同様に雇用されたアメリカ人就労者と同等に扱われなければならないが、ベネフィットに関し全く同じである必要はないというものでした。示された証拠書類では不公平は存在したもののGeneral Managerと同等に扱われなかったというところまで立証するに至るものではありませんでした。従って Rung氏に対する Amtel社への支払い命令にはフリンジベネフィットの外国人労働者との差額分は含まれない結果となりました。しかし逆を言うと、もし Amtel社が Internal Auditorとして他の従業員を雇用しており、その人のほうが多くのフリンジベネフィットを受け取っていたとしたら判決は明らかに変わっていたかもしれません。
このケースは、 H-1Bにて外国人を就労する際の特に解雇に関して雇用主および従業員の両方に対する警告とも言えます。もし雇用主側が適切なステップを踏んで従業員を解雇しなければ、解雇したと思われた後の一定期間の給与支払いの義務が発生するかもしれません。このケースにおける裁判所の判決は雇用主及び従業員の雇用上の権利と責務を示したものと言えるでしょう。 H-1Bを持つ従業員はあらゆる点において移民法により守られているとも言えます。また雇用主はあらゆる責任から会社を守るため従業員の解雇があった場合は必ず移民局に報告する責務があるということも警告しています。更に H-1Bを申請する際の LCAの記載に関しては雇用主及び従業員の両方が法律上正当に雇用がなされ、かつ健全に維持されていることを示す重要な書類となりますので、その内容を双方がしっかりと把握しておくことも重要です。